経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.13】
 
 創業87年、設立50周年。
 
"主食屋"は、時代に挑み続ける
 
株式会社 川島屋
     川島社長に聞く
 
 パンづくりのスペシャリストたちが焼きたてパンを提供するオーブン・フレッシュ・ベーカリー「marond」。実はパンや和洋菓子だけでなく、株式会社川島屋は米飯事業でも県外に名を馳せる存在。その旺盛な開発意欲で、大手メーカーに負けない商品力を最大の武器としています。時代とともに進化を遂げてきた老舗企業の川島弘士社長に、お話を伺いました。
 
‥‥‥起業のきっかけは?
 もともとは佐倉で和菓子職人をしていた祖父が、祖母と所帯を持って始めた「川島屋」という和菓子屋でした。稲毛の浅間神社の前に店を出したのが今から87年前、大正5年のことです。軍都・千葉には、軍人さんやその家族の方がたくさん住んでいたんですが、私の祖母は商才があり、経営者としてのセンスを持っていたようです。お茶やお花の先生をするうち、軍人の奥さんたちが祖母のところに習いに来て、その関係で川島屋を軍の御用達にすることができたんです。その後、関東大震災で焼け野原になった東京から、疎開してきたパン職人を雇い入れて、パンの製造を始めたと聞いています。
 敗戦後は、日本中の誰もがそうだったように、ゼロからのスタートでした。お得意様だった軍隊もいなくなってしまいましたから、戦後の学校給食制度導入が契機となり、学校へのパン納入が中心となりました。学校給食向けの需要は旺盛でしたが、夏休みなどがあって年間稼動日が180日と少ない点が悩みでした。

‥‥‥設立から50周年とうかがいましたが?
 株式会社川島屋としてスタートしたのは昭和28年。つまり設立からちょうど50年です。「marond」による小売業参入は昭和49年。あの頃のパン屋さんは、自分で作ったパンを自分で売って歩きました。ちょうど私は大手食品メーカーで修業して帰ってきた頃です。運転手がいないからと、私もルートセールスをしてました。朝4時頃、パンを積んで出かけて、お得意さん1件1件にパンを置いてくる。毎日、150kmとか200kmとか走って、集金して、帰ってくるのは夜。それが、ある日突然、お得意さんの店からうちの看板が消えている。「もう今日からいらないから」なんて言われてね。ふと見上げると、代わりに大手メーカーの看板がかかってる。理由を尋ねると、○○パンは1週間タダのサービスがあるから、と答えが返ってくる。うちにはとても真似できないし、これじゃ勝てっこない。ショックでしたが、じゃどうしたら勝てるのかと考えたら、どこが作ったパンでも焼きたてが一番うまいのは同じなんです。多くの食品と同様、パンは、名前よりも味で売れるんです。どんな小さな町の個人経営のパン屋さんだって、味がよければ売れる。だから、うちは焼きたてで勝負してみようと考えました。
 当時、まだ千葉には焼きたてを売るようなパン屋はなかったので、都内まで研究に行きました。なるほど、店内は焼きたてパンの香ばしい香りがいっぱいで、売り方そのものがフレッシュでおいしそうに感じるし、魅力的だった。これだ、と思いました。パンの技術ならあるんだから、焼きたてを売る、このオーブン・フレッシュ・ベーカリーという売り方で行こうと考えたわけです。

‥‥‥「marond」誕生当時のことを教えて下さい。
 美浜区幸町の卸売り市場の中に、オーブン・フレッシュ・ベーカリーとしての直営1号店を出したところ、1日10万円も売れてしまったんです。それまで、同じ場所でやっていた時は1日1万5千円程度だったのに さらに高洲の2号店では、1日15万円も売れてしまう。これはいける、と確信しました。これが川島屋の大きな転機でした。焼きたてのパンで、活路を見い出すことができたんです。思えば、創業から大体30年おきくらいごとに大きな転機を迎えているので、今また転換期を迎えていることになります。バブル崩壊後、日本中が今まで経験したことのないような状態が続いている。オーブン・フレッシュ・ベーカリーだって、いつのまにか千葉でも大手がこぞって出店しはじめる。では私たち中小のパン屋はどうするのか。結局、最後は商品力なんです。
 食べ物商売は、結果が瞬時に出ますから、それが強味でもあり、弱味でもあります。常に新製品や、季節商品を出して、既存の商品の改善・改良に努めること、特徴のある品揃えを充実させること。それに品質と価格を加えて、ようやく商品力があると言える。それがなかったら、中小は生き残ってはいけません。逆に言えば、それがやりがいに繋がります。おいしいパンであれば、大手だろうが中小だろうが、即座に選んでもらえるんですから、スピードと小回りの良さを駆使して、ひたすら商品を開発していくことなんです。ですから、210名の正社員の中の、およそ10名の開発部の人間がうちの生命線と言っても過言ではありません。

‥‥‥米飯事業について
 パンの他に、和菓子、洋菓子もやってきましたが、昭和55年から量販店向けに加工米飯の販売を関東近県で展開しています。これは今、伸びていますね。
 千葉ではmarondで覚えていただいてますが、県外では川島屋と言えばご飯屋として知られているんですよ。パンとご飯を柱に、要は主食屋だと考えています。主食を食べない日はありませんし、時代の浮き沈みに影響されにくいのがポイントです。
 はじめは日配の炊いたご飯だけでしたが、お客様からチルドものが欲しいという声があって、1週間もつものを開発しました。そのうちに、ロスを失くしたいから、もっと長もちする冷凍シャリ玉が欲しい、という声が出まして、3種類の米飯を扱うようになりました。最近の売れ筋は、健康志向の高まりからか、100%玄米使用の焼きおにぎりが注目されています。これは開発に7年かかりましたが、やはり特徴のあるものをどんどん作っていかないと、ただのご飯を売っても結局は価格競争になってしまう。ならば、川島屋じゃなきゃできないものを作って、お客様が欲しいと思うものを売ることに尽きるんですね。他にも、冷凍のおいなりさんが売れています。おいなりさんの袋は無添加にすると日持ちしないので、冷凍にしました。解凍してもおいしいご飯は、開発部の努力の成果です。焼きたてパンを地方まで届けることは困難ですが、冷凍米飯なら遠方にも出荷できるんです。

‥‥‥商品開発のカギはどんなことでしょう?
 まずはいい材料を選ぶこと。パンは生きものですから、季節ごとの微妙な温度変化に合わせた素材の配合など、職人の五感に頼るしかありません。しかし近年は消費者の皆さんも海外に頻繁に出かけられて、舌が肥えているので(笑)、例えばフランスパン、ドイツパンといった新しい味が求められています。海外で、本場の味を覚えて帰ってこられて「これは本場の味と違う」なんてご意見は多いですね。そんなニーズに合わせられるよう、毎月定期的に技術教育を行なっています。消費者が何を求めているのか、職人としてよりも、食べる側の視点で、何でも言い合える雰囲気づくりを目指しています。その10名ほどの製品開発委員会のメンバーには、工場の中にこもってないで、TVや雑誌で情報を得たり、実際に売れているパン屋さんを見に行ったり、売り場に立ってお客様のニーズを体感し、どんどん外に出るようにとすすめています。現場には必ずヒントがありますよ。
 「お客様のニーズをつかむ」という言葉はカッコいいけれど、実際にニーズを把握するのは大変なことです。「どんなパンが食べたいですか?」と聞いても、返ってくるのは抽象的な答えがほとんど。それをいかに具現化するかが大切です。味、商品のサイズ、価格、安全性 時代の流れをつかむことも大事ですし、私もよくコンビニ、デパート、そしてもちろんオーブン・フレッシュ・ベーカリーの有名店へは頻繁に研究に行きますよ。

‥‥‥近年のパン事情を教えて下さい。
 パンづくりの技術が活かせるのは、実はヨーロッパスタイルのハードタイプのパンです。これが今、特に女性に好まれています。いわゆる食パンのように型に入れて焼くのではなく、こねた生地を直接釜に並べて焼くので、粉・水・ビタミンC・イースト・塩のみという、シンプルな配合が基本。ですから焼き具合が全てなんです。この手づくり勝負が、大手には難しいようです。うちはパン技能士の国家資格保持者が40人ほどいますが、これは県内のメーカーでは一番多いんじゃないかな。年々女性の受験者も増えている資格です。もっとも、パン屋は夜中に起きて、朝の4時に作り始めなければ開店時間に焼きたてを出せませんから、今の若い人には大変みたいです。ヨーロッパだと、みんなその日の朝食のパンを朝、買いに来ますから、夜中の2時や3時にもう仕事してますよ。それほど、フレッシュ感を求められるのがパンなんです。でも、うちでも頑張っている女性の職人がいますし、男女全く関係ないですね。

‥‥‥新しい素材を使ったパンがあるそうですが?
 最近登場したのが、国産の麦(内麦)を使ったパンです。従来は外国の麦(外麦)でしたが、いずれは内麦100%のパンを発売する予定です。米の減反で、千葉県では麦の生産が増え、余剰が出ているそうです。それを活用するべく、昨年4月からは千葉県の学校給食のパンが内麦30%になりました。でも、内麦はパンを膨らませるグルテンの膜が弱く、イーストが発酵しにくいため、パンが固くなりやすいんです。やみくもに内麦の割合は増やせないので、活性グルテンを加えるなど技術でカバーしないといけません。最初はパンの残菜が多く、各学校の栄養士さんに「このパンじゃ困ります」と言われました。じゃ柔らかく、おいしくしましょうと、技術を駆使した結果、今は子どもたちもパンを残さなくなったそうです。
 そして今、取り組んでいるのは米粉のパン。食感はもちもち、しっとりしていて、おいしいんですよ。おむすびの感覚で、野沢菜など御飯に合う具を入れて包み、120円前後で販売予定ですが、どうしても小麦粉のパンの3倍の価格になってしまうんです。スーパーで買うお米と小麦粉の値段を比べればわかるとおり、原価が高くついてしまうんです。今後、小麦と米粉を半々に配合するなどして、価格を抑えたいと思っています。
 夏はパンの売れ行きは落ちるものですが、この米粉のパンなら喉越しがいいので、夏もいけるかもしれない、と期待がかかります。米の消費拡大にもなると、農水省からもすすめられていて、新製品開発委員会で研究中です。

‥‥‥今後の展望をお聞かせ下さい。
 この商売の良さは、ゼロから商品を作れるということだと思います。そこに自分の技術や思い入れを込めて、実現することができる。大変だけどもやりがいがあるし、お客様に理解された時は本当にありがたい。多少値段が高くても、本当においしいものは必ず売れるんです。
 現在、marondの店舗は27。鮮度を保つため、すべて花見川区犢橋町にあるセントラル工場から1時間以内の距離にしかお店は作らないようにしています。これまでは駅前店が中心でしたが、ここ数年は郊外店の展開を検討中です。広い敷地に、車で買いに来てもらう店は駅前と違い、お客様の目的意識がしっかりしているぶん、こちらもしっかりした商品提供が必要です。今のお客様は曜日によってパンの買い方が違うんですよ。平日は、スーパーで120円位で買える食パンにインスタントコーヒー。でも休日の朝には、ちょっと値段のはる豆を挽いたコーヒーを飲んで、ハードタイプのおいしいパンを買って食べる。そんな週末の生活スタイルが実際に定着しているようなんです。そこでカフェベーカリー風の店舗で、建物は女性好みのヨーロッパスタイルに。さらに店内には本場のパン焼き釜を設置して、そこで焼いたパンを食べられるとなれば、食べる側のおいしさのイメージも膨らみます。
 今はまだ夢みたいな話ですが、数年後にはスタートさせたいというビジョンがありますので、チャレンジしていきたいですね。

 
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