経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.23】
 
 千葉から、アテネの舞台へ
 
車椅子というフィールドで、モノ作りの情熱を燃やす
 
株式会社オーエックスエンジニアリング
     山口社長に聞く
 
 バイクのレーサーだった男が、事故で車椅子生活に。しかしそこから生まれた特注の車椅子が、やがて世界に認められるブランドとなっていく…
この夏、アテネでも大活躍する車椅子メーカー・株式会社オーエックスエンジニアリングの山口社長にお話を伺いました。
 
‥‥‥現在は会長になられた石井重行氏の創業のいきさつは?
 かつて石井はオートバイの人気レーサーでした。今から20年前、バイク部品の開発会社を経営していた35歳の時、新型バイクの試乗中に転倒、脊髄を損傷して歩けない身体となりました。その時に注文した車椅子を見て失望。「デザインは最悪、色も選べない」たて続けに7台オーダーしても不満だらけ。ついに自社の技術者に自分好みの車椅子を作らせ、やっと納得するものが完成しました。
 石井は事故後も4年程バイクの仕事を続けましたが、ドイツで開催された国際二輪車見本市を視察中に、現地の方に車椅子を褒められたんです。自分の部下に作らせたオリジナルが、その出来栄えを福祉先進国の方に認められた。それなら事業化してみようか?と、それが創業のきっかけでした。もともとモノ作りには自信がありましたし、やがて車椅子専門メーカーとなっていきました。

‥‥‥"車椅子"という、特殊性のある商品を扱うことについては?
 うちでは、ごく普通に工業製品として取り組んでいます。福祉関係はとかく特別視される、閉鎖的な世界です。社会的な援助金で、タダでもらったもの、だからもちろん選べないし、ユーザーが置き去りにされている。でもこれからの時代、例え自腹を切っても納得できる"いいもの"にどうしても乗りたい!という声に応えたいんです。何を作るんでも、製品に対する思いは変わりません。
 私は、勤めた会社の社長がたまたま車椅子の人だったわけですが、そこに"弱者"というイメージは全くなかったですね。身も心もバリアフリー。大体、社内でこの人は身体が不自由だから可哀想、この人は健康だから大丈夫、そんなこと言ってたら仕事になりません。例えば車椅子の社員が転んで、床にひっくり返っても誰も助けませんし、自分で立てるのであれば、放っておきますよ。助けを求められれば手を貸しますが、健常者がコケてるのを見て指差してからかったりするのと同様の接し方です、みんな。

‥‥‥車椅子に求められる機能とはどんなものですか?
 まずは軽さ。うちにも車椅子を使うスタッフが数人いまして、朝、自動車に車椅子を積み込んで通勤してきます。そして仕事帰りにテニスやバスケの練習をしたりして、積みおろしの回数も多い。また仕事をしていると長い距離を自分の手でこいで移動するので、こぎの軽さ、狭い場所でターンしやすさ、サイズのコンパクトさ、といった部分が大切です。そして出社から退社まで10時間座りっぱなしでも快適に過ごせることが大事です。特に下半身に感覚がないと褥瘡(じょくそう)になりやすいので、シートの幅や奥行きなどの採寸は綿密に行ないます。各ユニットごとに機能や価格を自由に選べる「ATO」システムという注文方式で、部分的な調整もお受けしますから、身体の成長や病状の変化に合わせたベストフィットなものを提供できます。色はおよそ100色から、2色使い、3色使いなどを含めれば、その組み合わせは無限です。ですから全く同じ仕様の商品が出ることはほとんどありません。大手メーカーが嫌がることにあえてチャレンジしています。ユーザーは障害の部位も度合いも千差万別、個性も好みも人それぞれ。オプションや特注部品はどうしても必要です。

‥‥‥製品はすべて国内で作られているのですか?
 はい。厳しい時代に設備投資できたのも、内製化を進めたからだと思います。自社ループで全てをまかなうのは大変ですが、何より小回りがきくんです。現在はグループ合わせて総勢100名、千葉で営業と開発、新潟には工場、他にスポーツ用車椅子部門、子ども用車椅子部門、そして布部分の縫製のみ、石井会長が手掛ける工場がフィリピンにあります。製品の納期は常に3週間以内を心掛けているので、その中で部品や色、デザインまでオーダーだと国内、それも自社内で賄うことが大前提ですね。

‥‥‥主力商品はどういった部門なのですか?
 アトランタ、長野、シドニーでのパラリンピックでうちの車椅子を使った選手が活躍し、合計48個のメダルを取ったこともあって「OXはスポーツ専門?と思われがちですが、スポーツ用車椅子の製造は全体の1/10程度です。確かに弱小の後発メーカーとして大手に追い付き、勝つまでやるという意気込みで開発に力を入れ、ことにスポーツ部門にはお金もかけましたから、その成果が出たわけですが、日常用から電動まで車椅子なら何でも扱います。作っている側には、スポーツ用・日常用の線引きは全くないです。
 よく展示会などで高齢者の方から「これは私達が乗る車椅子と違うわね」と言われますが、そんなことはありません。今のお年寄りは若い頃から我慢してきた世代なので、高価なものに遠慮してしまうんですが、確かに寝たきりだったり、逆につかまり歩きができる場合など、車椅子を使うのが1日数時間だけという方には、10万円20万円という金額は高いかもしれません。でも高くても、カラフルでコンパクトで1日座ってても疲れない、乗り心地は最高。そんな車椅子を、モジュラー式(オーダーメイドより融通がきき、一定の調整でサイズが変えられる)で身体にぴったり合わせて作りますから、遠慮しないで我が儘言って、使ってみてもいいんじゃないでしょうか。

‥‥‥山口社長が現在に至るまでにはどういった経緯があったのでしょうか?
 私は入社して15年になりますが、学生時代はバイクレースがブームで、現役レーサーだった石井に憧れていました。石井が都内でバイクのサービスショップをやっているのは知っていたのですが、たまたま私がこの中田町から数キロの場所に住んでいたんです。雑木林と畑に囲まれた何もないこの場所に、看板もなく有刺鉄線が張られた謎の施設でした(笑)。それが昭和63年に、千葉のこの地に移ってきた石井の会社でした。発表前のオートバイの新製品を開発していたので、セキュリティは厳重だったんです。不思議な縁で、まさかこんな近くにあの人の会社が…と驚きましたが、その後、晴れて入社させてもらいました。
 社長に就任したのは昨年です。それまでグループ会社の副社長を務めていましたが、オーナー社長でありカリスマ性を持つ石井の後任を引き受けるにあたり、数年間の準備期間を置く予定でしたが「こういうのは実際にやってみないとわからないから、もう変わるか?」と言われ、就任が早まってしまいました。こうして石井の話をするだけで何時間でもいけるほど、人間的に魅力あるキャラクターですから、彼に追い付くのは大変です(笑)。

‥‥‥従業員の方の平均年齢がずいぶんお若いようですが?
 会社自体がまだ歴史が浅いですから、平均すると30代前半でしょうか。大手のようにきちんとカリキュラムを組んだ社員教育は無理なので、いきなり現場に入ることになります。うちのような規模でのモノ作りの常として、1人の人間がいろんなことをやらなければいけませんから、幅広い知識が必要になります。例えばカタログのデザインから製品の設計、デザインに至るまで、全て自社内でやります。会長の石井本人もデザイナーとして日々、何かを作り続け、57歳の今も閃きやアイデアは尽きません。「本田宗一郎」のような人です。いまだに若いスタッフとやりあって「悔しかったら俺よりも売れるものを作ってみろ!」と言って若者に課題をどんどん与え続けています。小さな集団ですから、書類をぐるぐる廻して許可を取って…などと悠長なことをしている暇はありません。走りながら考え、走りながら作る。どう動くにも小回りとスピードが必要です。そのためにも若いスタッフが頑張っていって欲しいですね。

‥‥‥今年開催されるアテネの地でもOXの車椅子が活躍しますか?
 アテネではおそらく、海外の選手も8〜9割がうちの製品を使うと思います。ですからうちの社員もメカニックのサポートとしてアテネに同行します。ちなみに社員からもバスケットに2名、テニスに1名、日本代表として選ばれました。町工場からスタートした小さな会社の車椅子を使う選手が、様々な大会で優秀な成績を残し、それがメディアを通じて注目され、ドラマや映画の中で使っていただくことも増えました。ここ10年で、街には車椅子に乗った方が増えました。社会的にバリアフリーが進み、昔なら車椅子に乗って外に出るのを嫌がった方が、今は、外に出て行く気持ちになれる世の中なんですね。その気持ちを後押しするための機能性であり、デザインであり、色であり…街で、うちの商品に乗った方を見るのは何より嬉しいですね。身体が不自由でも、地域や個人とつながって生活していけるような車椅子作りを目指しています。
 
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