経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.34】
 
 精神科クリニック誕生から33年
 
     
      「うつ病から脳腫瘍まで
           "あたま"のスクリーニングにかける」
 
           
 
医療法人社団望葉会 日下医院
     日下院長に聞く
 
 平和で豊かだと言われながら、自殺者が3万人を超える現代の日本社会。ビジネスマンとして、経営者として、自らの、あるいは社員の"あたま"の健康は大丈夫だろうか?日頃、ついつい後回しにしがちな頭のスクリーニングについて、この道のエキスパートである日下医院の日下院長に、お話をうかがいました。
 
‥‥‥●開業からの歩みと脳ドックについて教えて下さい。
 当院は精神病から脳腫瘍まで、"あたまのスクリーニング"を目標にスタートしました。72年1月に今の弁天町で開業し、その後76年10月に新田町に移ってCTを入れて、89年4月にここに移り、MRIを入れました。92年2月に開業20周年事業として脳ドックを始めたのです。
 かつては電極を頭の表面につけて、脳波を見るしかなかったのですが、脳ドックでは症状を出さない脳腫瘍である髄膜腫なども多く見つかります。実は、極端に悪性の脳腫瘍というのは予防できません。もちろん毎月検査すればいいのですが、そうもいきません。当院ではどちらかというと最初から脳ドックの中でも特に、クモ膜下出血予防のための検診システムに取り組んでいます。
 いわゆる無症候性脳硬塞というのは年齢で増えていきますが、その他の要因として生活習慣病などで加速します。高血圧・糖尿病・高脂血症や、不整脈などの持病があると、危険因子が高いのです。またクモ膜下出血は、動脈瘤の破裂によるものがほとんどで、90%は5ミリ以上で破裂します。現在約0.7〜1ミリで見つけられるようになっています。
 私は88年の夏に2週間、カリフォルニア大学サンフランシスコ校での放射科医の卒後研修2単位の講習にに潜り込んで(笑)4000例、頭のてっぺんから爪先まで輪切りの画像を見ました。それで翌89年4月にMRを始めたんです。これまでに脳波、CT、MR、それぞれ10万例ずつ大体ひとりで見ています。世界でもそれだけ見ている人はあまりいません。患者さんはうちで検査するために、北は仙台や新潟、西は福岡、海外では台湾やタイから来院します。外国人なら、日下医院で脳ドックやって、ディズニーランド行って、皇居を見て帰るコースですね。余裕があれば新幹線で京都を見に行くという(笑)。



‥‥‥●CTスキャンとMRIの違いはなんですか?
 CTはX線を出し、MRIは磁力による画像診断です。
 磁力で画像を撮るMRIは勉強するのが難しく、時間や手間がかかるので、なかなか導入されません。CTスキャンはボタンを押すだけで撮れますし、クモ膜下出血などはそれですぐにわかるので、確かに非常に便利です。クモ膜下出血と言うと、激痛で身動きも出来ないと思われていますが、それは60数%くらい。実は頭痛も全くない場合が約8%。やはり40才になったら、5年ごとのチェックはしておいた方がいい。CTはごくわずかですが被爆しますが、MRは全くの無害です。
 現在、日本全国ではCTが1万台、MRが4千台ほど導入されています。ただその性能にはピンからキリまであって、使い方もいろいろありますし、その画像を診て、正しく判断する目も必要です。ただ最新MRがあればいいわけではありません。うちもCTは1台ありますが、使用したのは今年に入ってまだ300例弱、MRは2500例を越えています。MRに関して、当院の水準は千葉でも最高レベルに達していると言っていいかと思います。




‥‥‥●海外ではどういった方法で検査を行なっていますか?
 日本の救急センターはほとんどCTで対応していますが、アメリカでは緊急の場合もMRを使うようになっています。
 欧米では脳硬塞は早く見つけて、溶かすというのが常識になってきています。脳硬塞は発症から30分〜3日の間は写るという特別な撮り方があって、心筋梗塞も脳梗塞も、発症から3時間以内なら薬で溶けるんです。一応6時間まで可能性があるので、早く見つけて、早く検査するには、やはりMRがいい。なぜならCTは6時間以上でないと、ほとんど写らないんです。だから脳梗塞の疑いがあれば、MRが撮れる、中でもそういう特殊なものが撮れる病院にパッと行って、パッと撮ることですね。




‥‥‥●心の健康についてはどうでしょうか。
 ここ数年特に、うつ病や自殺の問題が急浮上してきました。うちでは電話で自殺を防ぐための「千葉いのちの電話」に、東千葉で開業したのと同時に携わるようになり、現在は私が理事長です。自殺者が3万人を超えましたが、自殺未遂者は30万人、さらに自殺のことばかり考えている自殺念虜者は300万人もいる。これはもう、国民の心の健康運動として考えなければいけません。調べてみると、健康な自殺者というのはいないんです。うつ病と、様々な精神病が合併している場合がほとんどですから、自殺予防とはうつ病対策と言っていい。今は簡単に診断できる用紙があって、素人でもチェックできますし、うつ病は80%が治りますから、ぜひ早期に治療を受けていただきたいですね。
 国別の自殺率では、人口10万人に対して25人と、先進国の中では日本がずば抜けて多い。国連の理事国入りよりも、自殺者を減らす方が先だと思いますよ。




‥‥‥●自殺の予防策はどんなことですか?
 人間は必ず死ぬんですよね。だからどう生きるかという価値観を明確にしないといけない。特別養護老人ホームには、脳も悪くないのに全く動く気がない老人がいる。若者ではニート、子どもでは学級崩壊の問題。親が「人間ってこれが素晴らしいんだ」という価値観を示せないから、心の健康は特老のお寄りから赤ちゃんまで、全ての世代において大きな問題なんです。
 頑張る理由が何も無いから苦労に絶えられない。いかに充実感を得られる、いかに頑張れる人生を送るか。そんな価値観がないから生きられないんです。生き甲斐もなく、年を取って仲間もいない、自殺も出来ずに灰色の人生を送る人が何百万人もいる。こんなに物質的に豊かでありながら、日本は本当にひどい国になりました。誰でもいつかは動けなくなり人の世話になる時が来る。その時に、どうやって生きる意味を見い出し、人に感謝しながら生きられるか。例えば道端の石ころひとつ見ても、雑草の緑を見ても、折々に感動できるか。そんな心のあり方の問題なのです。




‥‥‥●いわゆる痴呆、認知性についてはいかがですか?
 うちが89年にMRを入れた時、脳血管が詰まってしまう痴呆が8割、脳細胞が死んでいく痴呆が2割でした。それが今、逆転して、アルツハイマーが9割、脳血管障害性痴呆が1割。原因はやはり、刺激や感動のない生活や食生活です。
 予防としては、毎日体を動かし、若い頃からの趣味を持つとか、特別趣味がなくても、公園の花や犬や出される料理を見ても、命の恵みや温かさを感じられる生活が大事です。ぼけの予防は、若者の価値観の養成です。若い頃からそうやって生きてこないと、65歳から後、ひたすらぼけるための日々を送ることになる。経営者だって同じです。一番いいのは農業です。本当に若い頃から趣味も持てずに来てしまったなら、農業をやってみるのがいいと思います。金儲けとか営業のトークだとか、資格を取ってどうとかやってたって、それが無くなってしまえば何も残らない。それで寝たきりにでもなれば、何を見たって感動なんか出来ないでしょう。体の健康も、脳の健康も、そして心の健康も、予防の時代になったということを覚えておいて下さい。



 

 

 
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