経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.40】
 
 父から娘へ…先代の心意気を守る、料理屋の2代目
 
「召し上がっていただく、という気持ちを込めて」
       
                                                 株式会社花長・長谷川社長に聞く
 
 ジャズが流れる、モダンな店内。大正ロマンを思わせる、テーブル席のお座敷。カウンター越しに、板前さんやおかみさんと会話しながら、本物の味を楽しめる老舗「花長」は、その瀟洒なたたずまいの中に、新たなサプライズがたくさん詰まった、割烹料理のお店。2代目・長谷川順子社長にお話をうかがいました。
 
‥‥‥●創業当時の様子をお聞かせ下さい。
 昭和42年、私が11才の時に、父と母が2人で創業したのがこの道場の店です。今もよく覚えていますが、周りはほとんど田圃で、蛙が鳴き、白鷺が飛んでいました。椿森陸橋からこちら側は道路も無く、高品交差点も無かったんです。こんなへんぴな所を…と誰もが思いましたが、今になってみれば、周辺はすっかり市街地の一部になり、そんな街中の喧噪とはちょっと離れた閑静な住宅地ですから、かえって良かったのではないでしょうか。
 父はもともとエビの行商人でした。長谷川商店の名前で、高級鮮魚を仕入れ、築地や房総の浜で、お寿司屋さんや料理屋さんに納める仕事です。「花長」が始まってからは、私も中学生くらいから店の仕事を手伝っていたので、社長になったと言っても、ただ肩書きが変わっただけ。もちろん最初から素直に家業を継ごうとは思いません。「親の夢はこの店だけど、私の夢は違うんだ」と反抗したり、家出したり。でも私は若くして結婚、出産を経て、夫とは20年くらい前にさよならしてますので、結果的に家に残ってしまいました。おかげで父同様、仕事一筋ですが(笑)。



‥‥‥●先代の突然の死により、2代目を継がれたそうですが?
 父が亡くなったのは、一昨年、七五三の予約で忙しいさなかでした。その後、忘年会・新年会・おせち…と続く時に、おめでたい席を「社長が死んだ店に頼むのは止めよう」という方が増えようものなら浮かばれない。だから父には申し訳ないけども、本当に身近な方以外には一切知らせず、業者の人にも伏せていました。公にしたのは、年明け後。だって、もし売り上げが落ちたら父は死んでも死に切れません。不幸があってもお店は1日も休めませんし、葬儀の日に私が1日休んだだけです。そんな繁忙期だからこそ、悲しむ暇もなく乗り越えられたのかもしれませんね。
 でもいずれ、花長は先代が亡くなったという噂がたつ。だから、それからの半年で内装を一気にモダンな造りに変えました。まずは入口が大切と思い、玄関の竹垣も全部新しくして、ドアも取り換え、雨樋から門まで全部きれいにしました。一番大変な時期でしたが、がむしゃらでした。最初の1年は過ぎたのもわかりませんでしたね。社長がいて、私がいて、板場があった頃は、私がクッションになって良い関係だったんです。それが気づいたら、目は鬼のようになり(笑)、しょっちゅう調理場で怒鳴っている。心の余裕もなく「この頃、笑ったことが無いなあ」とハッとしました。板場のみんなは子どもの時から一緒なのでついて来てくれましたが、普通は辞めてますよ。「これじゃいけない」と気づくまでに1年かかりましたね。



‥‥‥●仕事一筋だった先代の味を守るのは大変なのでは?
 父は仕入れを一切、調理場に任せず、自ら市場に行っていました。亡くなる前後は私が、そして今は30才になる私の息子が築地に行っています。父亡き後、味が変わらずにいるのは調理場のおかげ。本店の調理長はまだ37才、その下に33才の板前が5人、皆16才、18才から頑張ってくれていて、花長の味は途切れることなく受け継がれている。本当に感謝しています。料理屋は接客も店構えも大事ですが、やっぱり味ですからね。
 作り手としては、もうとにかくおいしく召し上がっていただきたい、という気持ちだけです。この業界は皆さん、本当にそれぞれ努力していますから、うちもあぐらをかかず、お客様に飽きられないよう、常に勉強です。調理長や板場の若い子たちを連れて、東京の一流の店によく食べに行きますよ。それも勉強です。それをやらないと、いつの間にか井の中の蛙になる。だから本1冊でも馬鹿に出来ません。盛り付けや人気の動向など、情報は大切です。



‥‥‥●料亭でモダンなラウンジにカウンター席、意外なレイアウトですね。
 「あそこは高いから行けない」と思い込まれてしまい、皆さんとの距離が遠いのが残念で、ラウンジにカウンターを造りました。お座敷って結構、喋れないんですよ。接待や結納など改まった席だと「ごゆっくり」で終わってしまい、そこからもう一歩先へ踏み込めない。でもカウンターに私が入れば、お客様といろんなお話が出来るんです。
 そして私自身、音楽がないといられない性分なので、ラウンジにグランドピアノを置き、不定期でバンドを呼んで生演奏もやっています。それを客寄せにするつもりはなく、本当に音楽好きな方だけに集まってもらえばいい。ジャズやクラシックがよく似合うでしょう?実際にはお客様の頭はまだ「この店はお座敷」で、難しい部分もあります。店に入ってみて驚かれる方も多い。だからこそ、入ってきて欲しい。1度来ていただければわかってもらえます。このカウンターで、ランチでは揚げたての天ぷらが2600円なんですから、気軽にいらしてほしいですね。



‥‥‥●椅子の席や、和風モダンなインテリアに驚きました。
 うちは高齢のお客様が多く、足腰が痛いという声も多い。本当に足が悪いと、掘りごたつでも駄目なんです。そうなると、テーブル席です。一番近いお部屋は車椅子のまま入れて、段差があるところは、うちのイケメン調理師が介助してくれます(笑)。2階の広間も全て椅子にしました。私が絨毯とテーブルを見つけてきて、照明も和風からモダンなものにし、掛け軸の代わりに絵画を掛けて、ステンドグラスを飾ってみたんです。素人の私と、お店の子が何人かでちょっと変えてみただけで、パッ!と印象が変わって驚きましたよ。もちろんインテリアのプロのお世話にもなっていますが、私自身の意見もたくさん入れました。特に大事にしているのは照明。夜には少し光量を落とし、外のお庭もライトアップ。音楽もよりムーディーなものを選んでいます。ラウンジには日本酒同様にワインも並んでいますよ。和食とワインはおいしい関係ですね。うちではワインブームのずっと前、20年くらい前から入れてました。父は怒ってましたけど(笑)、お客様は喜んでましたからね。



‥‥‥●千葉では老舗料亭が次々と姿を消していますが
 「もう花長しかないから行くんだよ」と言われちゃ駄目なんです。他に行くところが無いからじゃなくて、うちがいいから来てもらわないと。そのための取り組みとして、最近始めたのは「ワンちゃん倶楽部」。愛犬家・愛猫家が、おいしい食事をしながら、情報交換や自慢話に花を咲かせてもらいたいんです。私自身も、犬を1匹と猫を2匹飼っていますからね。そして「ハ長調倶楽部」は音楽好きのためのもの。楽器はちょっと弾けるけど、発表する場が無いという人は、うちでやってくれればいい、というスタンスです。せっかくこういうスペースがあるんだから、いろいろやってみよう、とにかく一度敷居をまたいでもらおうと。
 


‥‥‥●改まった席での利用が多いお店としてのモットーはありますか?
 結納、お宮参り、七五三、ご法事…食にまつわる人生の節目、人生模様とともに、うちの料理を味わっていただくわけですから、長いおつきあいになるお客様も多いですね。
 昨年夏のある日、来店されたご婦人が貧血を起こされて、皆で介抱したんですが、彼女はご主人を亡くし、四十九日の法要をするお店を探していたんです。大事な人を亡くして1ヶ月足らず、娘たちは遠くに嫁ぎ、独りで全て決めないといけない。悲しみの中、疲れきっていました。私も父のことがあったからよくわかります。親や夫に死なれるって、人生で一番大変なこと。そんな時に葬儀場での食事は・・・・・遠方から集まるお年寄り達は皆、疲れて弱ってるんだから、おいしいお出汁で炊いた温かいお粥とか茶碗蒸し、鶏を入れた白菜鍋、そういう品を出さなきゃいけないんです。だからご法事のお客様には細かくお話をうかがい、高齢の方がいらしたらお料理を変えるなど心配りをしたい。ここに任せておけばいいと思ってほしい。お店って、料理を出すだけじゃないんです。よろず相談と言うと大袈裟だけど、お客様のそういう部分にも一歩踏み込んで、お手伝いしていきたい。地域でやっていくって、そういうことだと、つくづく感じていますね。
 
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