経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.41】
 
 用途はロケットからケチャップまで作っては壊すことで、ニーズに応える
 
  「お客様を呼び込む、攻めの町工場」
     
 


 
東葛工業株式会社細井社長に聞く
 
  一見、何の関連性もないように見える、様々な産業で使われる特殊なホースを製造、販売している東葛工業株式会社。自らの会社が「町工場」であることを誇り、若い社員が部門を越えて助け合う。そんな会社の創業者である細井良則社長に、お話をうかがいました。
 
‥‥‥●旧社屋は幕張町にあったそうですね。
 一昨年5月、ここ美浜区の新社屋に移ってきました。中小企業庁の経営革新法に取り組み、事業承認をいただいたので、社屋を拡張しようとしたのが、ちょうどバブルのピーク時でした。紆余曲折を経て経営革新法の変更申請を提出し、ようやく移転が決まったんです。やっと描いていた目的通り、この1000坪近い土地で、こうしてスペースだけは確保できました。ご覧のように、ガラス張りのオープンな内装にしています。製造部門も、余計な壁をつくらずに広々とした工場にしました。それは全体意識を高めた上で、生産性も高めていくためです。隠すことは何もないですから、社長室のドアもいつも開けっ放しです。成果主義をやるには、出来るだけ社内をオープンにして、誰が何をやっているかわかるようにしておく必要があります。この先もずっとそれが続くかどうかは成果次第ですが、今は社員が、このまま頑張ってくれれば大丈夫だと思っています。




‥‥‥●幕張という場所にこだわりがあったのですか?
 やはりメッセが近いという立地の良さと、従来のように、作ったものを持って訪問販売する形よりも、逆に、お客様にこちらに来てもらおうという、新しい定義をしてみたいと考えました。お客様の求めるものに出来るだけ近い商品を作る、そんな提案型の商売をやっていきたいと。そうでもしなければ、私どものような町工場の存続は出来ないのではと考えています。ここはJRが2駅、京成が1駅、高速道路のインターも近く、非常に交通の便のよい立地です。
 私どもは作って壊す、もの作りをやっています。ものを作って、それがどう壊れるか、壊れ方によって、それを改善しながら製品を商品化していく。理屈や理論よりも実践です。それは開発と言うより、お客様からの問題提議を商品化していくこと。その中で利益を上げて行くには、失敗の中から、どれだけ成功を生み出せるか。その確立は非常に低いですが、まずは来ていただくことで集客する、そんな「呼び込むビジネス」をあえて展開しています。





‥‥‥●産業用ホースとは、どういった用途のものなのですか?
 我々が作っているのは、いわゆる隙間産業の商品です。使われる先は非常にシビアな現場で、一例として風力発電の風車、HUAロケット、イージス艦、ワインやマヨネーズやケチャップなどの食品一見、何の関連もない、見えない部分で使われるホースを作っているホース屋です。ホースといっても、庭に水をまいたり、消防車についていたり、ガソリンスタンドで使ったりといろいろありますが、当社が作るのはもっと特殊なもので、意外な場所で使われています。イージス艦ではミサイルの発射装置。風力発電の風車では、羽根を回すギアが下の方にあるのですが、そこには化学薬品を加えて熱効率を高めた油が通っていて、万一、漏れたら危険ですから、そこに特殊なホースを使います。また、HTロケットでは燃料ホースに使われています。
 いずれも、非常に意義のある使われ方ですが、商売としては年に1回需要があるかないか。それだけでは食べられません。これらパフォーマンスで出している商品は、インパクトはあっても、コンスタントなビジネスに結びつかない部分です(笑)。




‥‥‥●マーケットのニーズは多岐に渡るのですか?
 私どものお得意様はIT、通信、半導体の業界の仕事が1番多い。2番目が医薬・食品・化粧品など健康関係。3番目が水にまつわる商品です。水道水が飲めるのは世界でも日本くらいですが、泥水をきれいにして水道管に送り、管の中で大体3日間、飲める品質を維持するために塩素を入れます。塩素は金属やゴムを劣化させるので、テフロンホースが使われます。また下水、雨水管や汚泥管では、川に流す前に様々な薬品を加えます。さらに塩素を入れ、アルカリを入れて中和する。それだけの薬品に耐えられるようにと、うちのホースは水の入口と出口で使われています。
 4つ目は化学工場・製鉄所や造船などの重工業。ここまでが一般産業。5つ目が燃料電池、風力発電などのエコ事業。6つ目が中国市場です。マーケットが多業種にわたるのは、一業種が駄目になっても他でカバーできることと、野球のナインで言うと4番、5番じゃなく1番や2番・・・8番、9番でもいい、絶対必要な部分を作っていたいからです。人間が生きるためにどうしても必要な、ライフラインの業態を削らないのは、町工場が生き残るための本能ですね。





‥‥‥●大手企業の参入にはどう対抗しているのですか?
 今、ひとつの商品だけでは、町工場は10年も食べていけません。3年もたつと同業他社からの参入など、様々なことが起こる。マーケットの要求に、商品をマッチングさせられる企業でないと、やっていけないと思います。
 付加価値を高めるために量産型をやってしまえば、会社は潰れないかもしれないが、いいものは作れません。設備の資金力やスペース、人材確保力では大手さんには勝てませんから、そういう部分には目を向けていませんね。うちの規模は小さいですから、言葉通り町工場です。しかし大手さんより納期が早いとか、お客様のニーズにいろんな部分で対処していけるとか、一歩でも半歩でも大手さんより前にいたい。ただし規模や売り上げを追い掛けても仕方が無いです。100億売って3億儲かるのより、10億で3億儲かる方が楽ですよ(笑)。その代わり私どもは、欧米の航空・軍事産業の自己責任の取り方を、この島国の日本で、民事で展開してやろうと思っています。






‥‥‥●人材育成についてはいかがですか?
 当社は特別な職人を有しているわけではありません。ただお客様に言われた提案を、どう商品に出来るかというだけですから、現場も非常に若いです。皆それぞれ性格は違いいろんな子がいますね。それぞれ自分の思ったように作り、思ったように壊す。テストしてみて、その壊れ方、形で現れるもので経験を積んでいき、判断力が加わっていく。うちには研究開発に使う何千万円もの機械なんてひとつもありません。全部自前の機械です。それでも自分達がやりやすい形で、いろいろ工夫しながらやっているんです。
 その蓄積で失敗を重ねた者は、その半年後、1年後に再び失敗しても、対応が早くなります。しかし、積極的で前向きな子もいれば、ただ言われたままに頑張る子もいる。彼らに「教育」として何かを擦り込むことはあまりしません。そうやって、社員に好き勝手をやらせて、上手く機能するか否かは、ひとりひとりの力量次第。小回りのきく町工場だからこそ、大手さんに負けない、フレキシブルな応用力を持つものを、社員たちは作ってくれています。ありがたいことに、うちは社員がほとんどやめないんですよね。

 

‥‥‥●ものづくりの現場は、やはり自由な雰囲気なのですか?
 
私自身はもともと、ものづくりの人間ではなく、商学部出身の営業マンあがりです。お客様の要求を聞いていくのは、ずっとやってきたことなので、創業時には私も偉そうに能書きばかり並べていました。その頃は営業畑で培った自信もありましたが、今はもう言えません(笑)。能書きを言う前に、形で表すべきなんです。言ったって形にはなりません。とにかく出来たものを見せろということです。
 うちはサファリパーク、つまり放し飼いの会社だとよく話すんですが、自由な代わりに自己責任を持ち、自己管理をしなければいけません。これは楽なようで、実は一番辛いはずです。忙しい部署があるのに、自分の仕事が終わったからと黙って見ているようではいけません。アメリカの企業のように合理性だけを追求するのと、我々は違います。忙しかったら、みんなで協力して早く終わらせればいい、それがサファリパークです。




‥‥‥●社員同士、作り手と売り手との関係が御自慢だとか。
 当社の特徴はと聞かれたら、ものを作る人間と、ものを売る人間とが、非常に仲がいいことでしょう。よく、製造部門と営業部門は仲が悪い企業が多いと言いますが、当社においては仲がよくある意味では、これがお客様のニーズに出来るだけ応えていく秘訣かもしれません。もの作りの現場で仲間同士がいがみ合うと、いいものは出来ませんからね。気持ちが入らないものを作られても、それを売る時に虚しいと思うんですよ。逆に一生懸命作ってくれたものだと思えば、すごく売りたくなるでしょうし、そこで信頼関係が大事になってくる。
 当社の基本的な考え方は「仲間を信用しよう」。作り手が一生懸命、苦しんで作ったものは、例え失敗したとしても、やはり信用してあげて欲しい。その努力を見て見ぬふりはしないで欲しい。お互いが、お互いの立場を理解・尊重しなきゃいけないんですよ。



‥‥‥●今後の、長期的なビジョンはお持ちですか?
 当社は10年、20年という大きなスパンの計画よりも、5年、3年、その中の1年1年の目標を明確にしようと考えています。本社を移転させた一昨年は、足元を固めるための年でした。続く昨年9月からの新年度、今期は攻めの営業をしようと決めました。しかし、営業所は神奈川と大阪と、ここの3カ所だけ。材料を買って加工するだけの町工場として、全国を網羅出来ないぶん、新聞などの媒体を利用してPRし、ビジネスと時間の短縮に努めています。
 広告はこれまでも多少やっていましたが、ある程度の規模のものを出すには、それだけこちらの体制が整っている必要があります。一昨年は広告宣伝費を圧縮させていましたが今期は、それを一気にぶつけています。この節目を、明確にしていきたい。業績が悪くなった時に一番困るのは、踏ん張りどころで踏ん張りきれないこと。押されても押し戻して、もとの位置に戻し、逆に押し込むためにはツルツルした棒よりも、竹のようにしっかり節のあるものにつかまればいい。だから、節目は大切です。その節目は社長の私が作るのではなく、社員ひとりひとりが作るべきだと思っています。






 
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