経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.49】
 
 世界にはばたく日本屈指の種苗集団
 
 
「1粒の種に込められた厚い信頼のもとに」
 
株式会社みかど育種農場・越部社長に聞く
 
  小さな種ひと粒ひと粒に思いを込めて、300年以上続いた種屋さん。意外にも自由な業界だという貴重なお話を、農業をとりまく環境が激変していく中、世界にマーケットを広げながら邁進する越部社長にお話をうかがいました。
 
‥‥‥●創業当時のことを教えて下さい。
 
もともと当社は、江戸時代から続く種子屋でした。はっきりわかりませんが300年以上前だったと聞いています。東京の滝野川(今の板橋駅前)、川越街道沿いには当時種屋さんが集まっていました。街道の要所にあれば、地方から種を買い求めに来る販売店さんが立ち寄りやすかったようです。
 戦前、近隣の種屋さんと合併して会社が大きくなっていき、帝国種苗殖産株式会社という日本一大きな種苗会社にまで発展したのですが、戦後倒産してしまいます。それを復興させたのが、まだ学生で、赤紙が来る直前で終戦を迎えた前会長、私の父でした。種苗業界というのは不思議な業界で、お互い競争相手でありながら親戚同士のようにおつきあいをし、非常に仲が良いものですから同業の皆さんのご協力を得られたんですね。父も、育種のブリーダーを他社からひとり貰ってくる、ということまでしたそうです。現在でも、上手く行かなかった会社に出資してあげたり、社員の方を自分の会社で雇ってあげたりします。当社も先代の池田社長は、東京の種屋さんから当社に研修に来て、戻る予定だったのが、どうも会社の様子があまり良くないと、そのままうちに残って社長にまでなった人なんです。その復興の地が、もともと東京時代から農場として持っていた、ここ星久喜でした。あとは18ha弱の研究農場が大多喜にあります。




‥‥‥●海外市場にも進出していらっしゃるそうですね
  種苗業というのは小さな業界ですが、今は日本だけで出来ることはほとんど無いんです。種を取るにも、試験採取や育種にしても国内だけでは無理なんですね。農産物を作る時、湿度が高いとカビが生えたり虫がついたり、病気が出やすくなります。逆に、よく乾燥していて適度に水やり出来る環境なら、病気も出にくく必要な量だけ水を与えられる。砂漠で水に恵まれれば種にとっては完璧で、ずーっと一定の気候に越したことは無いんです。日本の農家の皆さんはいつも気候と戦っていることになります。湿気や急な寒暖の差四季が豊かで、困難な状態だったからこそ品種改良に努め、世界のトップクラスにまで育種が発達したのでしょう。当社では国内なら、多少栽培が難しくても栄養価の高い品種を作ることで価値を高めています。あるいは肥料が従来の半分の量でも作れるような根の強い品種を作れば、より低コストで生産できて収益につながります。
 低価格で同じものが大量に欲しければ、土地や人件費の安い海外で作ったものを買えばいい。そういう農業と、日本の農家さんがどう戦っていくのか。私どもも、日本の種を海外に売って、海外で作られた野菜が日本に輸入されれば日本の農家にダメージを与えると国賊呼ばわりされたことがあります。でも世の中の動きからすれば、それにどう対処するか、勝ち残っていけるかだと思っています。
 当社には国内はもちろん海外から研修に来る方もたくさんおられます。かつて中国や韓国から研修生を受け入れたのは、種苗業界ではうちが日本で初めてでしたし、かなり積極的に受け入れてきたつもりです。



‥‥‥●海外、国内含めて出張が多いそうですね。
  海外では日本食ブームが根強く、そこに日本の野菜もついていきます。今、世界各地で日本の野菜が作られ始めています。つまり海外の農家の方も顧客ですから、社員は毎月数人ずつ世界のどこかに出張中です。私も年間で1ヶ月半くらいは海外です。現地の気候や土壌に合った種を研究・開発して試験を繰り返し、その土地にいい品種があれば持ち帰り、自分たちの育種に役立てていく。その繰り返しです。国内も入れると私の出張日数は年間120日くらい。種の価値というのは実体の無いもので、種そのものを見ても評価のしようがなく、作ってみないとわからない。作物が出来た時にはもう手遅れですから、相手との信頼関係を常に保たないといけません。付け届けから始まり、冠婚葬祭には業界全体が動いて、もう大移動です(笑)。そのくらい密な関係でないと、小さな種ひと粒を信用することは難しいんです。
 種の値段というのは大体生産コストの3%です。その3%で残り97%のコストが決まってしまう。そこに利益も加われば、100%以上の金額を左右してしまいます。けれど何かあった時に保証しろと言われてもそれは出来ません。そんな口約束みたいな世界で、私と一緒に仕事をやっていけますか?と相手に問わねばならない。それが東北や北海道なら年に1作しか出来ない気候で、その1作で失敗すれば1年間収入が無くなってしまい、一家離散にもなりかねない。それだけの責任を、買う側も売る側も持っているんです。種を買うということは、それだけの厚い信頼関係を築いているということなんですね。



‥‥‥●社員教育はどのように行なっていますか?
  この仕事は、一人一人がいろいろな材料をポケットに持っていて、現場やお客様の前で求められた時にすぐ取り出せる状態が必要です。それには長い年月をかけて取り組み、結果が出るのが10年後だったりする。それを、上からただ徹底してしまっても、必ずしも将来上手くはいかないと思います。もしその予想が外れたら全員で転んでしまう。ならばなるべく自由に、自分自身がやろうと思うことを、各自が出来るだけやってもらおうと考えています。種も苗も、子育てと一緒。365日、24時間、常に交替で誰かがつきっきりで面倒を見ます。だから労働基準法に合わない部分をどうするかは大きな課題ですね。社員の方もやりかけた仕事を中断するなんて冗談じゃない、ここまでやってきたものを失うわけにはいかないという気持ちを当然持っています。季節的に、ある時期には集中してやるべき作業を「週に何時間」とは区切れません。一応、社是とか社訓もありますが、それによって人を縛って、管理をして上手くいく仕事ではありませんね。



‥‥‥●これまでに大ヒットした商品はありますか?
  
以前、スイカで全国の8割以上のシェアを占めた時は、大手広告代理店さんとも組んで、末端まで消費活動をしましたね。当時、マーケティングの実績まで積めたことは収穫だったと思います。しかし、その品種に一度問題が起きると、大変なことになるのを学びました。同じ土地で同じ品種を作っていて病気が発生すると、一斉に被害が出て、違う品種だけが生き残ります。その結果うちが悪者で、生き残った品種を作っていた農園さんが良いという大逆転になり、とても辛く、貴重な経験でした。シェアの拡大によってリスクをともなうわけです。自然のことは誰にもわからないし、必ず毎年違う何かが起こります。これだけ気候が不安定になると、農家の方も技術を上げていく能力が無ければ生き残れません。でも技術や能力にも差がありますから、皆が難しい品種を上手に作れるわけじゃない。本当は畑1枚1枚、人が皆それぞれ違うように、違う品種を作るべきなんです。逆に能力があるなら少しくらい難しくても、付加価値のある品種に取り組むべきでしょう。
 当社では資材メーカーさんと一緒に、農家さんに役立つ商品を作っています。例えば弊社事業部からスタートした会社のみかど化工では、シート(マルチ)やハウスといった現在日本中で使われている資材を多く世に送りだしてきました。自分たちの種からしっかり野菜が作れるように、資材まで含めて開発してきたわけです。同じように土づくりにも取り組み、各メーカーさんが作る材料を実際に使ってみて研究を進めています。



‥‥‥●品種のニーズはどう移り変わっていますか?
  
従来は生産者が買いたいと思うものを作ればよかった。でも今後は、外食チェーンや加工業者が買い手になり、彼らが農家に作ってほしいのは何かを考えなければいけません。例えばあるジュース会社で、キャッチフレーズに「カロチノイドが高い」という言葉を入れたいなら、カロチノイドが高い品種が欲しい。ただのニンジンではなく特に栄養価の高いニンジンが求められ、私どもはそれに合わせて改良したものをお薦めする。でもいいジュースを作るための品種が青果物としてどうかと言えば、おいしさと栄養価は一致しませんから、味は決して良くはないんです。そうやって最大公約数で作らないと量が確保できず、量が確保できないと採算が合わない。現代は効率のよさ、無駄をはぶくことだけを優先してきてしまった。長持ちしないものほどおいしいけれど、残念ながらスーパーが種屋さんに最大要求するのは、ロスを少しでも少なくできる、何日も並べておける野菜なんです。ですが消費者も、よりおいしいものを求めるようになってきています。そろそろ付加価値の大切さが戻ってくるのではないか、ということに、品種を作る側である私どもも期待しているんですよ。
 






 
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