経  営  談  話  室 
【経営談話室 Vol.55】
 
 アナログ放送からデジタル放送へ
 
 

「多様化の時代、
  メディアとしての過渡期に挑む」


 
千葉テレビ放送株式会社 今泉 由弘社長に聞く
 
  昨年4月からスタートした地上デジタル放送。2011年のアナログ放送終了を控え、テレビ業界は過渡期を迎えています。地元・千葉の放送局として、時代の荒波に挑む今泉社長にお話をうかがいました。
 
‥‥‥●デジタル化への対応はどのようにされていますか?

 アナログ波からデジタル波へと完全に切り替わるまであと4年あまり。従来のアナログと違い、電波をいったん信号としてキャッチして、それを機械の中で再生して音や映像に変えるのがデジタル放送ですが、これは放送局の設備全てがデジタル化しないと出来ません。今はまだ東京のキー局でも、取材などではアナログのカメラを使っていますから、それをデジタル波で見ると両サイドが切れた映像になったりしています。当社でも、本社内にある機材の2/3くらいがようやくデジタル化したところで、末端の取材カメラやお天気カメラ、スタジオ内の部分的な機材はまだ切り替わっていません。千葉テレビのメインアンテナ(送信所)は船橋にあり、ここはすでにデジタル波を流していますが、その他県内26局の中継局を全てデジタル化するに当たり、今まで使っていた放送に関する機材を100%新しいものに替えるには、トータルで46億円程かかります。売り上げ356億円の会社が、たった数年の間にそれだけの投資をしなければならない。これはかなりキツい状況です。また現在アナログで電波が届いている場所全てにデジタルで流せるようにしないと放送免許にかかわってきますから、中継局も相次いで手がけていかなければなりません。2011年にアナログ波を止めた時、全てデジタルに切り替わっていなければいけない。当社ではデジタル化のために、昨年末の時点で約18億円の投資をしましたが、それでもまだ4割くらいです。これから残り6割に投資していって、2010年には大体終わってないといけないわけです。


‥‥‥●社長就任のきっかけは?

 かつて10年程前まで、公営レースと県庁からの番組で千葉テレビの売り上げが成り立っていた時代がありました。ところが時代の流れで、公営企業の不振や地方財政の悪化が続き、売り上げは大幅に下がり、会社の経営は赤字体質へと落ち込んできました。その減収の最中に、デジタル化の負担もかかってくるということになりました。それを立て直すべく、3年半前に私に社長の話がありました。当時bayfmにおりましたから業界のことも把握していましたし、ずいぶん悩みましたが、失敗を覚悟の上でお受けしたんです。それからはデジタルへの投資と、経営の立て直し、そして県庁とレースの減収分を補っていく営業活動。その三重苦で、まさにヘレン・ケラーのようでした。収入の大半を一般企業さんから広告をいただくという、これまでほとんど無かった営業に切り替えていかなければならない。それをトップダウンで、社長である私自身が動いて「お願いします」と言えば、ある程度OKをくれる方もいらっしゃったでしょう。でもそれは義理で、“おつきあい”ですから長続きしません。とにかく営業部員に頑張ってもらいました。それまではチャンネルひねれば県庁の番組か競輪・競馬というイメージだったわけで、そのままでは広告を出してもらえません。営業強化のためにも“見てもらえる番組作り”に努め、10本以上新しい番組を作りました。それでも最初の2年は減収でした。かなり強引な節約も進めたので、増益ではありましたが、収入の落ち込みはカバー出来なかった。それが底で、17年度からは増収・増益で売り上げそのものが上がってきたため、デジタルへの投資も可能となってきました。


‥‥‥●テレビ業界の将来はどうなっていくのでしょうか?

 これからの時代、テレビはどんどんチャンネルが増えていきます。デジタル化すればBSCS放送を受信できるチューナーが内蔵されますから、せいぜい5、6千円のパラボラアンテナを取り付けるだけで物凄い数のチャンネルを視聴できることになる。もちろん有料ですが、CS70局くらい、BSも各局3チャンネルずつ持っていますから、100以上ものチャンネルが目の前にやってくるわけです。そうなると、1つの局が20%も30%も視聴率を取るなんてことは相当難しくなる。業界の価値観、そしてテレビの在り方自体が変わっていくことは確かだと思います。


‥‥‥●視聴者が求めるのはどんな番組なのでしょうか

 当社のような小さな局では、視聴率ではもちろんキー局にはかないません。夜8〜11時のゴールデンタイムは、キー局同士が1020%という数字を争う時間帯ですが、それだけの視聴率を取るには、老若男女、誰もがまんべんなく面白いと思う番組作りをしなければいけません。でも当たりさわりのないものを見てもつまらないという人もいる。今、音楽にしても映像にしても、かつてのフォークソングや歌謡曲の全盛時代のように、子どもからお年寄りまで誰もが知っていて人気があり、全国的にヒットするようなものは無くなりました。国民の各層から支持されるエンターテインメントが生まれにくい時代です。全てが多様化し、同じ世代の中でも嗜好が細分化されてしまって、皆が好きという共通のテーマが無くなってしまった。制作側にとっては大変やりにくい時代ですが、そこを我々のような局が狙うわけです。キー局と同じ方向性、同じ土俵で争っても勝てませんから、誰もが楽しめるような番組ではなく、層を絞っていく。例えば今、ゴルフ人口は3%程度と言われ、少ないけれど彼らはゴルフ番組を確実に見てくれる。あるいは、翌朝の新聞を待たずに県内ニュースがわかる『C-MASTER』を見てくれるのはある程度年齢の高い人たちです。そういった、非常に狭い範囲だけども一定の部分は必ず見てくれるという番組作りに力を入れています。深夜帯などは意外にも、キー局に比べても視聴率で健闘しています。マニアックな番組ほど、必ず飛び込んでくれる人たちがいるんです。当社としては、趣味や年齢・嗜好に照準を合わせ、また地域限定の情報はおまかせ下さいという部分がターゲットになります。まだまだ過渡期ですから充分とは言えませんが、これから少しずつ努力していって、そういう番組を増やしていきたいですね。



‥‥‥●人材育成にはどのように取り組んでいますか?

 営業、制作、報道、総務、全て含めて社員は80名くらいです。団塊の世代も多いのですが、テレビ局の仕事というのは机の上だけで勉強できるものではなく、徒弟制度に近いものがあるんですね。制作部門は特に、現場で揉まれないとなかなか一人前にはなれませんし、カメラひとつ扱うにしても、ディレクターをやるにしても、やはり現場の雰囲気の中で育っていくもの。そこをどう時代とマッチングさせて人材育成していくかが重要ですが、弱小局としては、大規模な人員を維持していくことは成立し難い。外部の専門スタッフの力も借りながら、枢要な部分の人材をどう育成していくかが課題ですね。


‥‥‥●今後の社長としての課題は?

 とりあえず2011年まではデジタル化への投資を続けながら、経営を黒字にしなければならないという命題があります。これから残りの投資をどうしていくかが、社長として最大の懸案ですね。もうひとつは、千葉テレビは、地域の一般の皆様向けに、どうしたらより見ていただけるチャンネルに出来るか。キー局では2クルー(半年間)の連続ドラマを作るのに10億、20億というお金をかけています。我々にはとてもそんな真似は出来ませんから、限られた制作費の中で、各々の層に確実に見てもらえる番組をラインナップし、趣味嗜好の狭い範囲に向け、あるいは限られたエリアの地域情報をどう出していくか。特に千葉テレビは若い層に弱い。資金的に余裕がある時代なら、テスト的な番組を作ってみるという冒険も出来ますが、今、この厳しい状況の中で、どう方向性を出していくかですね。昨年春から使用しているロゴマーク「チュバ」は、社内の30代女性スタッフだけでプロジェクトを組み、作り上げたキャラクターです。これからどう育ってくれるかと楽しみにしています。若い人、特に女性に興味を持っていただけるよう、愛されるものにしてほしいとだけ提言しましたが、細かい中身については社長からあまり口出ししないようにしました(笑)。
 テレビ業界はデジタル化に向かって、確実に、狭い範囲を対象としたものへと変わっていくことでしょう。そういう時代に対応した番組作りについて、今後、勉強していかなければならないと思っています。



 
 前のページに戻る
  Copyright (c) 1998 Chiba Chamber of Commerce & Industry. All rights reserved.